コンテンツ 保護司へインタビュー Vol.1
地域で受けとめるということ
自分の人生だけでも手いっぱいの
はずなのに、見ず知らずの他人の
人生までも背負ってしまう。
保護司は究極の「おせっかい人」だろう。
そのエネルギーは、一体どこから?
ベテラン保護司に聞いてみた。

「利他の精神」に導かれて
呉地区
月原 廣政 さん


母の生きざまが原点に
私が小学6年の時に父が亡くなり、お袋がうどん屋を始めるなど苦労して育ててくれました。その生きざまに触れてきたためか、家庭の温かみを知らない人を見ると、居ても立っても居られない。保護司として、対象者が自分より年上なら「兄貴」、年が離れた少年なら「息子」と思い、家族のように接してきたつもりです。自分の家族が困っていると思えば真剣になれるし、上から目線ではなくて同じ目線に立てる。それで初めて役割が果たせると信じています。
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かつて体重は58kgでした
保護司歴は20年です。海上自衛隊を定年退職して地元の更生保護施設、呉清明園の補導員に再就職してからです。園では元受刑者や非行を重ねる少年たち、かれこれ800人と寝食を共にしました。当時の私は痩せてガリガリでしたが、大男の少年とも対峙しなければと決意して食生活を変え、無理して肥えたんです。でも、こちらが真剣な思いで立ち向かえば、彼らも決して殴りかかったりはしないし、心を開いてくれる。今の体重? もう元には戻らなくなりました。
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自分で自分を褒めてあげよう
人生のやり直しに欠かせないのは住まいと仕事です。
ところが、例えば広島に働き場所が見つかっても、長らく刑務所にいた人が呉から電車に毎日乗って通えるかどうか。私は企業を何社も回っては、宿舎の確保や仕事場への送迎を頼み込んできました。どうしてそこまで面倒を見るのかって? 「利他の精神」でしょうか。誰も褒めてくれなくても、自分で自分に「ようやったなあ」でいい。私は一人で呉の海を見ながら缶コーヒーを飲む。
そんな至福の時で十分です。

女性の仲間 もっと増やしたい
西地区
住本 惠子 さん

話したくても話せない母親たち
遅くに結婚した私は子どもがいません。子どもの心理はよく分からない。少年を多く担当してきましたが、彼らの親になろうと思ってもなれるわけではありません。でもかえって、それがよかったみたい。私には心を許し、親には言えないことも素直に話してくれます。それと驚いたのは彼らの母親のことです。自分の子について周囲に固く口を閉ざしてきたものの、やっぱり誰かに話を聞いてほしい。そこに気づいてからは意識的に、相談相手になるよう心がけています。
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少年たちから信頼されるには
学校、鑑別所、簡易裁判所と周囲の大人にあれこれ言われ続けた彼らは、決して大人を信用していません。保護司もそんな大人の一人です。最初に「守秘義務があるから信用して」と説明しますが、なかなか信じてくれない。でも大事なのはやはり守秘義務です。親にも言わないと約束したら、守る。その子の人生を抱え込むようなケースもあって、秘密を守るのは結構しんどいです。でも頑張って信頼関係を築けば、
一人の少年の素晴らしい成長に立ち会えるんです。 -
決して楽じゃない。でもね…
「保護司、やろうよ」と知り合いを誘ってきました。「対象者を家に招き入れるんでしょ」などと敬遠されることが多いですね。けれども、担当した少年に彼女ができ、結婚し、子どもができたと報告に来る。心から「よかった」と思い、充実感を覚える瞬間です。やってみなければ分からないでしょうが、この「大変だけどやりがいがある」保護司をもっと多くの女性に体験してほしい。守秘義務もあって「隠れた存在」の保護司ですが、もっと認知度を高めたいですね。
いつも自然体 ストレスもなく
安佐北地区
日隈 眞理子 さん


まずは黙って話を聞くこと
保護司にとって大事なこと? そうねえ、「受け入れる心」かな。ああだこうだと話しかけるよりは、まずは黙って話を聞くこと。担当したのは少年たちがほとんどで、どうやったら団地にあるわが家に抵抗なく入ってこられるかをあれこれ考えてきました。犬や猫を飼っていると男の子も結構、触れ合って遊んでくれるし、帰りは犬の散歩も兼ねて団地の曲がり角まで送っていく。そうしたありふれた日常こそが、心の落ち着きにつながるはずです。
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話題に困ったら頭の形を褒める
男の子が家に来たらリビングに座らせてお茶と茶菓子を出します。向こうが話したがらないことは、こちらも何も聞きません。そうして淡々と時間が過ぎ、帰るころにお菓子が余っていたら「妹さんにもあげてね」と持たせるのがポイントでしょうか。そう言えば、ウンともスンとも言わない子がいてね、ある日、ちょうど散髪していたので「あなた、頭の格好がいいね」と褒めたら、ニヤッと笑ったね。ぼそぼそであれ、互いの感覚が伝わり合えばいいんです。
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居場所でなくても逃げ場所でいい
かつて対象者は自分の子どもほどの世代だったのですが、今ではほとんど孫世代ですね。それで最近、思うんです。親と衝突した子どもが祖父母のところに駆け込んでくるように、保護司は対象者の「居場所」にならなくても「逃げ場所」になればいいんだと。これまで私が担当した案件は幸いにも、大抵うまくいきました。たわいない会話であれ、常に自然体で相手と接してきたのがよかったのでしょうか。実はこれまで、ストレスを感じたことがないんです。